ナクトウェイの水割り

「たった一度でいい。世界中の人たちが戦場を自分の目で見たら、リン火剤で焼かれた子どもの顔、一個の銃弾によってもたらされる声も出ないほどの苦痛、手榴弾の爆風で吹き飛ばされた足。そんな恐怖と不合理と残虐さを、皆が自分の目で見れば、戦争はたった一人の人間にさえ許されない行為を万人にしているのだと、きっとわかるはずだ。

 でも皆は行けない。だから写真家が戦場に行き、現実を見せ、事実を伝え、蛮行を止めさせるのだ」

 引用したこのフレーズは、2003年に公開されたドキュメンタリー映画『戦場のフォトグラファー(war photographer)』(監督クリスチャン・フレイ)の終盤で、被写体である戦場写真家のジェームズ・ナクトウェイがカメラに向かって、一語一語を区切るように語った言葉だ。



森達也「リアル共同幻想論」
http://diamond.jp/articles/-/10579